1年で最も寒い1月末に北海道で断熱や換気、空調を体感する研修ツアーに参加してきました。
企画は「一般社団法人 ミライの住宅」さん 、アテンドは北海道の建築家 山本亜耕さんが解説と案内をして下さいました。
まず最初に訪問したのが、少し前に話題になった北広島市にある『Fビレッジ』ではなく、
放射冷暖房機器メーカーのPSの体験施設マダガスカル
https://ps-group.co.jp/product/lineup-r
ここでは輻射熱による暖房効果を体感しました。
冷暖房機器の製造工場も案内して頂き、詳しくお話しも聞けました。
この施設で衝撃的だったのは50年ほど前に建てられた建物でガラス以外には断熱改修なども行われていない、ほぼ無断熱状態の建物にも関わらず、寒さを感じないことでした。
到着した時は外気温が-5℃程度ですので、常識では断熱されていない建物では温度差が大きく暖房されていても不快になってしまいます。
全くそんな事もなく、穏やかな暖かさに包まれる感じがありました。
さらに驚いたのは窓のフレームが鉄にも関わらず、全く結露をしていない事でした。
これには???と本当に頭が混乱しましたが、後で考えると理解できて暖房計画と輻射暖房の効果を実感しました。
夜はPSさんの宿泊施設に泊まりましたが、ここでも輻射暖房の心地よさを体感する事に。
暖房時に気流を感じない事と音がしない快適さは体感しないと本当にわかりません。
この暖房方法を兵庫県で実現するにはいくつもハードルがあって、特にコスト面と施工面で厳しいのが現状です。
しかし暖房計画を工夫して気流を感じない心地良さに近づけながら、省エネになる設計を行う事は出来ると思いますので、ご提案に取り入れていきます。
2日目は札幌の朝市で腹ごしらえと見学をした後、旧荒谷邸を訪問しました。
旧荒谷邸は45年ほど前に建てられたコンクリートブロック造の住宅です。
温熱環境の研究者である荒谷先生が実験住宅として自ら建てられた超高断熱な住宅ですが、現在のように優れた建材がない中でトリプルガラスや断熱玄関ドアなど自作されていました。すごいのは現在でもそのまま使われている事です。
今は荒谷先生の教え子であるタギさんと言う方がメンテナンスをしながら住まわれていて、暖房や家の温熱環境など、いろいろと説明をしながら教えて下さいました。
この旧荒谷邸ではコンクリートブロックの蓄熱効果や断熱性の大事さを実感しました。
山本亜耕さんは
『断熱をギリギリの性能で計画すると空調や換気計画で細かく調整をしたり、いろいろと難しい設定をする必要がある。
断熱を出来る限り上げておくと暖房も冷房も少ない運転で行う事ができる。』
と言った内容のお話しをされていました。
実際に旧荒谷邸のC値3.0程度だそうですが、全然寒さを感じないどころか、日射があると暑いくらいまで温度が上がっているのも体感できました。
40年以上前とは思えない断熱性能は現在でも通用するレベルでやはり住み継げる家は素晴らしいとあらためて感じ、性能を出来る限り上げておく事が本当に大事だと実感する体験でした。
その後、小樽に移動し小樽港北防波堤の資料館を訪問して、その築造過程や歴史について説明を聞かせて頂きました。
建築とは違い土木の構造物になりますが、小樽の港が栄えるきっかけになった大事なインフラと言う意味では興味深く、また100年前のコンクリート構造物が過酷な環境下でも壊れずに現役でその役割を果たしている事に本当に驚きました。
しかも耐久性を高める為に地元の材料を使って工夫を凝らしている点や造って終わりではなく、長期にわたって強度を確認する為のテストピースなど先の事も考えた姿勢には頭が下がります。
100年前にこんな事が出来た事に驚きながら、住宅でも耐久性や先を見据えた設計と言った考え方が大事だと再認識する事にもなりました。
せっかく小樽に来たので市内を少し観光と言いたいところですが、ここから雪道を歩いて『水天宮』を目指して坂道を登っていきました。
さすがに高台と言う事もあり、小樽の街並みを一望できる景色はさすがです。
ニシン漁により栄えた町はその風光明媚な建物と雪により幻想的な雰囲気が漂っていました。
それらの資源を観光地としても上手く活用されているのが素晴らしかったです。
最終日は小樽三角市場で腹ごしらえをしてから楽しみにしていた山本亜耕さん設計のリノベーションの完成住宅と建築中の住宅を見学させて頂きました。
リノベーションのお家ではすでにお住まいでしたが、住まい手の方が快く迎え入れて下さり、感想や暮らし方について詳しくお話しして下さいました。
ここではパッシブ換気の考え方や暖房、日射取得について体感しながら知る事が出来ました。
特に印象に残ったのが住まい手の暮らしの仕方に合わせて設計を行う事で難しい設定などをしなくても快適に出来る暖冷房計画を行うと言ったお話しは本当に勉強になりました。
何でもそうですが、細かい設定を行って最適な状況を作る為に複雑にしていけば、それを使いこなせない状況が生まれて結局、無用の長物になりかねません。
そんな事にならないように私もよりシンプルで長く使ったり、メンテナンス出来る物を使った設計を心掛けていきたいと思います。
さらに近くで新築中の工事現場も見せて頂きましたが、こちらではパッシブ換気を取り入れた設計の考え方や実際の施工について、実物を見ながら説明も聞く事ができました。
パッシブ換気は機械や動力に頼らずに自然な空気の流れだけで換気を行う方法ですが、寒い地域では有効な換気方法で北海道では実績も多くあります。
ただ冬が短く、暑さが厳しい地域ではそれだけで換気は難しいですが、24時間換気用のファンを利用して上手く計画を行えば、最低限の動力で換気できる事もわかりました。
実際に実践されている方もいる為、今後も学んで提案できるように考えていきたいと思います。
その後、YKKAPの札幌ショールームを訪問しました。
ここでは施設の体感コーナーを説明を聞かせて頂きながら回り、樹脂サッシの研究者の方には北海道での樹脂サッシやトリプルガラスの普及率やフレームの構造など技術的な話も伺いました。
フレームの内部でセルが細かく分かれている方が断熱性能は高いと言ったイメージがありましたが、実際にはそんな事もなく、性能としては変わらないと言う事実がわかったのはとても有意義でした。
思い込みではなく、実際の測定で判断する必要があるとあらためて感じました。
最後は北海道建築指導センターを訪問させて頂き、建築指導課の方などから官民学一体になった取り組みについて説明をお聞きしました。
南幌町で取り組まれている『みどり野きた住まいるヴィレッジ』についてのお話しは建築家の方や地域工務店が暮らしのクオリティを大切にした取り組みと言う事で大変興味深く、2016年から続けられているのが素晴らしかったです。
里山住宅博の取り組みもとても良かったのですが、持続的な取り組みにする為には行政の力も大事だと感じましたので、今後、そんな取り組みや働きかけが出来るようにアンテナを立てていきたいと思いました。
充実した研修を終えて帰宅の途に就く為に飛行機に乗り込んでから試練がありました。
離陸直前に急な降雪で2時間以上、機内で待たされた挙句、欠航というなかなかの試練が。
次の日の朝一の便で無事に帰れましたが、修行の旅と言うタイトルにふさわしく、最後まで気の抜けない旅となりました。
山本亜耕さんの
『北海道では断熱されていないのは家ではない』と言う言葉には切実な思いを感じました。
暮らしを楽しむ以前に、健康を害するような環境は家として機能しないと言うことを身をもって体験できた事が非常に大きかったです。
山本亜耕さんには他にも
『自分達が先人の方に教えて貰った事で食べているのに、教えるのは当然』
『体感しないと伝える事が出来ない』
『意匠とか言う前にまず断熱されている事が前提』
『断熱は当たり前にして、意匠や機能などに力を入れられるように』
『部材やシステムはできる限り単純化して、再現性を高くする。その為に使う物は絞って、現場で間違いが起きないようにしている。』
『気流の無い家は快適な環境になる』
『北海道の家は音がしないのが当たり前』
など目から鱗の話や仕事に対する姿勢を見せて頂きました。
これからの家づくりに間違いなく大きな影響を与えてくれる本当に貴重な機会となりましたので、肝に銘じて取り組んでいきたいと思います。
企画、ご案内頂いた森さんと山本亜耕さんには貴重な機会を頂きまして、心から感謝です。